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大阪地方裁判所 昭和34年(わ)735号 判決 1964年3月30日

教員

片山巌

ほか十一名

主文

被告人等はいずれも無罪。

理由

第一  公訴事実及び罰条

(一)  本件起訴状に記載せられている公訴事実は、

「被告人片山巌は大阪教職員組合(以下大教組と略称する)の執行委員長、同東谷敏雄は同組合書記長、同井上成章は同組合書記次長、同山下重雄は同組合組織部長、同小笠原政子は同組合情宣兼婦人部長でいずれも同組合の常任執行委員であり、同小巻敏雄は同組合大阪府立高等学校支部(以下府高支部と略称する)長、同村田恭雄は同支部書記長、同星田豊宏は同組合岸和田支部書記長、同樫原信昭は同組合布施支部書記長、同平山亮一は同組合池田支部書記長、同三浦重義は同組合三島支部書記長でいずれも同組合の執行委員であり、同中西澄は同組合高槻支部書記長、相被告人鈴木寛太郎は同組合枚方支部書記長であるところ、大阪府下公立小、中、高等学校教職員に対する勤務評定に反対し、これを阻止する目的をもつて、同組合傘下組合員である右教職員をして、年次有給休暇に名を藉り、校長等の承認なくしてもなお全員就業を放棄し、同盟罷業を遂行させるため他の組合役員と共謀の上、

(1)  被告人小巻敏雄、同村田恭雄の両名において、昭和三三年一一月二日頃より同月四日頃までの間大阪府下において、同組合府高支部傘下の分会役員である同府立高等学校教職員約六〇名に対し、一一月五日は校長等の承認なくしても一斉にいわゆる全日一〇割休暇をとるべき旨の指令を通達し、かつ組合で一〇割休暇闘争を決定したから闘争に参加困難な分会も努力して参加せられたい旨申し向けるとともに、同分会役員等を介し、同支部組合員たる右教職員約二、五四〇名に右指令の趣旨を伝達して右一斉就業放棄方を慫慂し、

(2)  被告人星田豊宏において、同年一一月一日頃より同月五日頃までの間岸和田市内において、同組合岸和田支部傘下の分会役員である岸和田市立小、中学校教職員二十数名に対し、前同趣旨の指令を通達し、かつ闘争参加困難な分会についても闘争に参加せしめるよう最後まで努力せられたい旨申し向けるとともに、同分会役員等を介し、同支部組合員たる右教職員約三九〇名に右指令の趣旨を伝達して右一斉就業放棄方を慫慂し、

(3)  被告人樫原信昭において、同年一一月一日頃から同月四日頃までの間布施市内において、同組合布施支部傘下の分会役員である布施市立小、中学校教職員約三〇名に対し、前同趣旨の指令を通達し、かつ闘争参加態勢の弱い分会に対しては一一月二日、三日の休みも会議を開催して闘争に参加させるよう努力せられたい旨申し向けるとともに、同分会役員等を介し、同支部組合員たる右教職員約七六〇名に右指令の趣旨を伝達して右一斉就業放棄方を慫慂し、

(4)  被告人中西澄において、同年一一月一日頃から同月四日頃までの間高槻市内において、同組合高槻支部傘下組合員である高槻市立小、中学校教職員約二〇〇名に対し、前同趣旨の指令を通達し、かつ一〇割実施に努力せられたい旨申し向けるとともに、同分会員等を介し、その余の同支部組合員たる右教職員約一〇〇名に右指令の趣旨を伝達して右一斉就業放棄方を慫慂し、

(5)  相被告人鈴木寛太郎において、同年一一月一日頃から同月四日頃までの間枚方市内において、同組合枚方支部傘下の組合員である枚方市立小、中学校教職員二百数十名に対し、前同趣旨の指令を通達し、かつ大教組で一〇割休暇闘争がきまれば当支部ではこれを確認するのみで修正はできないものであり、組織に生きる人間は組織の決定に従うべきである旨申し向けるとともに、同分会員等を介し、その余の支部組合員たる右教職員数十名に右指令の趣旨を伝達して右一斉就業放棄方を慫慂し、

(6)  被告人平山亮一において、同年一一月一日頃から同月四日頃までの間池田市内において、同組合池田支部傘下の分会役員である池田市立小、中学校教職員約一〇名に対し、前同趣旨の指令を通達し、かつ右指令の内容を解説強調するとともに、同分会役員を介し、同支部組合員たる右教職員約二三〇名に右指令の趣旨を伝達して右一斉就業放棄方を慫慂し、

(7)  被告人三浦重義において、同年一一月一日頃から同月四日頃までの間茨木市、三島郡内において、同組合三島支部傘下の組合員である三島町、島本町または茨木市箕面市学校組合立小、中学校教職員約六〇名に対し、前同趣旨の指令を通達し、かつ支部執行部としても大教組の方針に従うことに決定したから各分会でもこれに従うよう努力せられたい旨申し向けるとともに、同組合員等を介し、その余の同支部組合員たる右教職員約一一〇名に右指令の趣旨を伝達して右一斉就業放棄方を慫慂し、

もつて地方公務員たる前記各学校の教職員に対し同盟罷業の遂行をあおつたものである」

というのである。

(二)  罰   条

地方公務員法(以下地公法と略称する)三七条一項前段、六一条四号、刑法六〇条

(三)  なお、検察官は右公訴事実について左記趣旨の釈明をなした。

(1)  起訴状記載の共謀は、刑法六〇条の共謀であつて、地公法三七条一項及び六一条四号の共謀をいうのではない。

(2)  右共謀は、最終的には、昭和三三年一〇月三一日大阪府教育会館において開かれた大教組常任執行委員会及び戦術委員会でなされた。即ち右常任執行委員会で同年一一月五日の全日一〇割休暇闘争の具体的行動規制原案を作成し、ついで開かれた右戦術委員会において、右行動規制原案が提案され、各項目について検討の結果これを可決して闘争突入を決定し、口頭指令としてこれを傘下各分会に伝達することになつた。右戦術委員会には、被告人片山、同東谷、同井上、同小笠原、同小巻、同星田、同樫原、相被告人鈴木及びその他の戦術委員が出席した。被告人平山、同村田、同中西、同三浦は右戦術委員会に出席しなかつたが、これに出席した組合役員等と意思連絡がある。

(3)  本件起訴の対象となつている実行行為は、被告人小巻、同村田、同星田、同樫原、同中西、同平山、同三浦、相被告人鈴木が、それぞれその所属する府高支部、岸和田支部、布施支部、高槻支部、池田支部、三島支部、枚方支部について、同年一一月五日校長等の承認なくしても一斉にいわゆる全日一〇割休暇をとるべき旨の指令を通達伝達し、かつ起訴状記載の通り申し向け慫慂した行為である。その日時場所を更に具体的にいえば、

(イ) 府高支部では、被告人村田、同小巻が同年一一月二日大阪府立清水谷高等学校で開かれた分会代表者会議において、分会役員約六〇名に対し前同趣旨の指令を通達し、かつ同月四日頃右分会役員等を介し、同支部七六分会において、その分会員合計約二、五四〇名に右指令の趣旨を伝達し、

(ロ) 岸和田支部では、被告人星田が、同月二日頃岸和田市立大宮小学校で開かれた支部拡大闘争委員会及び朝陽小学校で開かれた分会代表者会議において、分会役員約二十数名に対し、前同趣旨の指令を通達し、かつ同月四日頃右分会役員等を介し、同支部一七分会において、その分会員合計約三九〇名に右指令の趣旨を伝達し、

(ハ) 布施支部では、被告人樫原が同月一日頃布施市立第四小学校で開かれた分会代表者会議において分会役員約三〇名に前同趣旨の指令を通達し、同月一日頃から同月四日頃までの間、右分会役員等を介し、同支部二五分会において、その分会員合計約七六〇名に右指令の趣旨を伝達し、

(ニ) 高槻支部では、被告人中西が同月一日頃高槻市立高槻小学校で開かれた支部臨時大会において、一六分会の分会員合計約二〇〇名に対して前同趣旨の指令を通達し、同月一日頃から同月四日頃までの間、右分会員等を介し、同支部一六分会において、その余の分会員合計約一〇〇名に右指令の趣旨を伝達し、

(ホ) 枚方支部では、相被告人鈴木が同月一日頃枚方市立蹉小学校で開かれた支部臨時大会において、一六分会の分会員合計約二〇〇名に対し、前同趣旨の指令を通達し、同月四日頃同分会員等を介し、同支部一六分会において、その余の分会員合計約九〇名に右指令の趣旨を伝達し、

(ヘ) 池田支部では、被告人平山が同月一日頃池田市立池田中学校で開かれた分会代表者会議において、分会役員約一〇名に対し、前同趣旨の指令を通達し、同月三日頃から同月四日頃までの間右分会役員等を介し、同支部九分会において、その分会員合計約二三〇名に右指令の趣旨を伝達し、

(ト) 三島支部では、被告人三浦が、同月一日頃茨木労働会館で開かれた支部全員集会において、一一分会の分会員合計約六〇名に前同趣旨の指令を通達し、同月二日頃から同月四日頃までの間、右分会員等を介し、同支部一一分会において、その余の分会員合計約一一〇名に右指令の趣旨を伝達した。

(4)  公訴事実にいう通達とは上から下へ直接命令を伝えることをいい、伝達とは人を介して命令を伝えることを指すのであつて、通達及び伝達はそれぞれ別個に地公法六一条四号のあおる行為に該当する。公訴事実に記載されている事項を申し向けた行為は、指令を通達する際これを徹底させるために附加された行為で通達と一体となつて一個のあおる行為に該当し、慫慂した行為は、指令を伝達した際これを徹底させるために附加された行為であつて伝達と一体となつて一個のあおる行為に該当し、慫慂した行為は、指令を伝達した際これを徹底させるために附加された行為であつて伝達と一体となつて一個のあおる行為に該当する。そしてこれらの行為が包括一罪の関係に立つ。

(5)  又、公訴事実に分会役員或いは分会員等を介しというのは、被告人等が犯罪目的を達成した手段方法を具体的に明らかにしたものであつて、被告人等の指示によつて伝達行為が行なわれたことをいう。分会役員及び分会員等による伝達行為はこれだけ切り離して考えるべきではなく、指令が発出されこれが分会役員を通じて下へ行く一貫した流れが一つの伝達行為であり、被告人等についてもやはり伝達行為があつたと法律的に評価すべきであるから、被告人等も正犯の責任を免れない。他人の伝達行為について正犯の責任を負う根拠として、共同正犯であるか間接正犯であるかを明らかにする必要はない。

第二  当裁判所の認定した事実

(一)  大教組の組織及び運営

大教組は、組合員の経済的社会的政治的地位の向上をはかり、教育並びに研究の民主化につとめ、文化国家の建設を期することを目的とし、大阪府下にある学校及び学校関係の機関に勤務する者を構成員として結成されている団体である。現行の大教組規約によれば、「大教組は、大阪府教職員組合とその他大阪府下にある国立および私立関係の単位教職員組合をもつて構成する」と定められているが、これは後に述べる登録上の規約である大阪府教職員組合規約の規定と辻褄を合わせるための規定であつて、実際には単一体として運営されており、他の都道府県教職員組合とともに連合体である日本教職員組合(以下日教組と略称する)に加盟している。

大教組には、機関として大会、中央委員会、常任執行委員会及び執行委員会がある。大会は、最高の決議機関であつて議決権及び発言権をもつ代議員(支部組合員四〇名につき一名とし、端数二〇名以上あるときは一名を加える)と発言権のみをもつ一般組合員とで構成され、毎年一回五月に定期的に開かれるほか、大会の決定及び中央委員会又は組合員の五分の一の要求により臨時に招集される。中央委員会は、大会につぐ決議機関であつて、支部毎に組合員の直接無記名投票により選出された中央委員(支部組合員二〇〇名までは二名、二〇〇名をこえる分については二〇〇名ごとに一名を加え、端数は一〇〇名をこえるとき一名を加える)で構成され、月一回定期的に開かれることになつているほか、常任執行委員会が必要と認めたとき、及び中央委員三分の一以上の要求があつたときにも招集される。常任執行委員会は、執行委員長、副執行委員長、書記長、書記次長、会計委員及び常任執行委員で構成される執行機関である。常任執行委員会に業務処理のため書記局をおき、書記局は書記局員をもつて構成し、その事務を総務部、組織部、情宣部、教育文化部、給対部及び法制部においてそれぞれ分掌している。執行委員会は、常任執行委員会の構成員と執行委員とで構成する機関であるが、執行委員は後に述べる大阪府教職員組合の名目上の役員として専従休暇をとるために設置された役職名で、本来の任務は支部機関の役員にほかならず、従つて執行委員会も名目上のものにすぎない。

大教組の役員としては、執行委員長、副執行委員長、書記長、書記次長(以上各一名)、会計委員(二名)、常任執行委員、執行委員(以上各若干名)等がある。執行委員長は、組合を代表し、組合業務を統轄する。副執行委員長は、執行委員長を補佐し、執行委員長に事故あるときはその代理をする。書記長は、正副委員長を補佐し、書記局を統轄する。書記次長は書記長を補佐する。又、大教組は、原則として各郡市に支部をおき、各学校に分会をおくことになつており、昭和三三年当時、大阪市立小、中、高等学校及び特殊学校が各一支部を作り、大阪市を除く府下では各郡及び市毎に(ただし一部の新しい市は郡部に入る)、公立小、中、高等(府立高等学校を除く)学校を一つにした支部を作り、ほかに府立高等学校、府立特殊学校、府立大学、国立大学、市立大学及び私立学校がそれぞれ一支部を作つていた。支部には代表者として支部長がおかれ、支部運営のため、支部大会、支部執行委員会等大教組に類似した機関がおかれている。又、各分会には、分会代表者若しくは分会責任者、分会委員会等がある。

なお、規約には規定されていないが、重要な闘争が展開される場合には、臨時に「闘争委員会」や「戦術委員会」が設置されることがある。

大教組の事実上の組織及び運営は以上の通りであるが、かような組織では地公法による職員団体としての登録を受理されないので、別に大阪府教職員組合規約を作成し、これを大阪府人事委員会に登録申請して受理されており、右規約によれば、大阪府教職員組合は、大阪府下にある公立学校及び学校関係の機関に勤務する者をもつて組織する大阪府及び府下の市町村単位教職員団体の連合体であると定められており、大教組と同じく執行委員長、副執行委員長、書記長、書記次長、会計委員、常任執行委員等の役員がおかれている。大教組の執行委員長以下の各役員は大教組の役員として選出されるが、これらの者が府下公立学校教職員の身分を有する限り、そのまま大阪府教職員組合の役員として人事委員会に登録される。又、大教組の各支部の多くは、その全部又は一部がそれぞれ所轄の人事委員会又は地方公共団体の長に地公法上の単位職員団体として登録されており、従つて大教組の支部長の多くは当該支部で結成登録されている単位教職員団体の委員長となつている。

(二)  被告人等の大教組における地位

被告人片山巌は大阪市立城陽中学校教諭(専従休暇)で昭和三一年四月大教組執行委員長に就任し、被告人東谷敏雄は大阪市立関目小学校教諭(専従休暇)で昭和二六年五月大教組書記長に就任し、被告人井上成章は、大阪府立市岡高等学校定時制教諭(専従休暇)で昭和三三年四月大教組書記次長に就任し、被告人山下重雄は同年四月大教組組織部長に就任し、被告人小笠原政子は、大阪市立大開小学校教諭(専従休暇)で同年四月大教組情宣部長兼婦人部長に就任し、いずれも以後引き続きその地位にあつたもので大教組常任執行委員であつた。被告人小巻敏雄は、大阪府立生野高等学校教諭(専従休暇)で、昭和三三年四月府高支部長に就任し、被告人村田恭雄は、大阪府立泉陽高等学校教諭(専従休暇)で同年四月府高支部書記長に就任し、被告人星田豊宏は、岸和田市立久米田中学校教諭(専従休暇)で同年四月岸和田支部書記長に就任し、被告人樫原信昭は、布施市立第六小学校教諭(専従休暇)で昭和三一年四月布施支部書記長に就任し、被告人平山亮一は、池田市立渋谷中学校教諭(専従休暇)で昭和三〇年池田支部書記長に就任し、被告人三浦重義は、大阪府三島郡三島町立味生中学校教諭(専従休暇)で昭和三三年四月三島支部書記長に就任し、いずれもその後引き続きその地位にあつたもので大教組執行委員であつた。被告人中西澄は、高槻市立清水小学校教諭で同年四月高槻支部書記長に就任し、以来その地位にあつたものである。

(三)  大阪府下における教職員に対する勤務評定制度実施及びこれに対する大教組の反対闘争の経過

従来公立諸学校の教職員に対する勤務成績の評定は、地公法四〇条により任命権者即ち都道府県立学校については都道府県教育委員会、市町村立学校については市町村教育委員会がこれを行うべきものと定められていたが、事実上人事のために何等かの勤務成績の評価がなされていたのは格別、同法に基づく計画的定期的な勤務成績の評定は一般に実施されておらず、大阪府下の公立諸学校の教職員もその例外でなかつた。

ところが、昭和三一年一〇月一日施行の地方教育行政の組織及び運営に関する法律(以下地方教育行政法と略称する)が、各教育委員の選任方法を公選制から任命制に改め、都道府県教育委員会教育長の任命を文部大臣の承認にかからしめるとともに、従来市(特別区を含む)町村教育委員会のもつていた所謂県費負担教職員即ち市(特別区を含む)町村立小、中学校、特殊学校及び定時制高等学校教職員の任命権を都道府県教育委員会に移し(ただし市町村教育委員会の内申をまつて行使する)、かつ県費負担教職員に対する勤務評定を都道府県教育委員会の計画の下に市町村教育委員会の行うべきことと定めるに至るや、すでに同年春頃以来愛媛県議会及び知事当局より、同県の財政難解消の手段として公立学校教職員に対する一律定期昇給を改め勤務評定を行つて成績の良好な者から財源の許す範囲内で昇給を認めるよう要求されていた同県教育委員会及び同県下各市町村教育委員会は、同県教職員組合の激しい反対闘争の中で、昭和三二年三月末を勤務評定書提出期限として同県下公立諸学校の教職員に対する勤務評定を計画実施した。一方政府もその頃から全国公立学校教職員に対する同一基準による勤務評定の実施を企図し、又、全国都道府県教育委員会教育長をもつて組織されている都道府県教育長協議会もその総会において教職員に対する勤務評定の全国的な基準案を作成することを決定し、文部省の指導助言の下にその試案作成の作業を進め、更に全国都道府県の教育委員長をもつて組織されている全国都道府県教育委員長協議会でも、昭和三二年一〇月一〇日の総会において、全国都道府県教育委員会はできるだけすみやかに教職員の勤務評定を実施するとの申し合わせをなした。その後右教育長協議会において完成された勤務評定の試案は、同年一二月二〇日に開かれた右教育委員長協議会の総会に報告された上、都道府県教育長協議会の名で「教職員の勤務評定試案」(以下全国試案と略称する)として一般に発表され、同時に右教育委員長協議会総会において、全国都道府県教育委員会は右全国試案を標準として教職員の勤務評定をなすべき旨の申し合わせがなされた。

大教組の加盟する日教組は、夙に愛媛県における教職員の勤務評定実施に対する同県教職員組合の反対闘争を支援して来たが、右の如く教職員に対する勤務評定の全国実施が問題となるや、教職員に対する勤務評定の全国実施は科学的人事管理の名のもとに近来急速に進められて来た反動文教政策の仕上げを狙つたものであるとし、同年一二月二二日に開かれた第一六回臨時大会において、どのような勤務評定にも絶対反対の立場で、休暇闘争を中心とする全国的な統一闘争をもつてたたかうことを基本方針として決定した。

かような情勢下において、大阪府教育委員会(以下府教委と略称する)は、同年一一、二月頃府下教職員に対する勤務評定実施の検討を始め、更に昭和三三年三、四月頃より同委員会事務局において関係資料を集め、上記全国試案をもとに勤務評定規則制定のための作業を進めた。

一方、大教組においても、すでに昭和三二年一一月二日の第一六四回中央委員会において、大阪府における教職員に対する勤務評定の実施を阻止するため、府教委が勤務評定実施の方針を決めたときは、四日間にわたる二、二、三、三割休暇闘争を実施することとし、この闘争実族については昭和三三年二月上旬頃全員投票を行ない、その結果に従い実施の時期方法を大会で最終的に決定することを決定し、右決定は昭和三二年一一月二六日の第四三回臨時大会に提案可決された。ついで、同年一二月九日の第一六五回中央委員会において、勤評反対及び予算闘争を中軸とする当面の闘争を進めるために戦術委員会の設置が決定され、昭和三三年二月八日には上記第一六四回中央委員会及び第四三回臨時大会の決定に基づき、二、二、三、三割休暇闘争に関する全員投票が行われ、七三・九%の賛成票があつた。その後、同年四月一六日の第四五回臨時大会において、すでに愛知県ほか四県で勤評規則が制定されたことが報告され、同月二一日以降事態急変し府教委が実施案を提示したときは休暇闘争を含む実力行使をもつてたたかうことが決定された。

かくの如く、大教組は勤評阻止のための闘争態勢を固めるとともに、府教委に対して勤務評定に関する交渉の開始を要求し、同月二五日九項目からなる要求書を大阪府教育委員長あてに提出し回答を求めた。右九項目の要求書の要旨は、「(一) 現在問題となつている勤務評定は、教育を中央集権化し、平和と民主主義に基づく教育の破壊を狙う政府自民党により極めて政治的に提起されたものである。(二) 現在提起されている勤務評定は、本来の趣旨であるべき研修を軽視し、上下の秩序を確立して当局の支配体制を強化する狙いをもつている。(三) 地公法の勤務評定に関する規定は除外を認めないものではなく、又他の官庁会社等において勤務評定が実施されているからといつて教職員にも当然これを実施すべきものであるということはできない。(四) 現在わが国の中央地方の教育行政官公庁には調査研究部局が十分整備されておらず、特に市町村教育長の中に全く一日の教職経験も有しない者があるような情況下では科学的な勤務評定は殆ど不可能に近い。(五) 現在教職員については科学的な勤務評定を実施するために必要な職務遂行の基準が明確に設定されていない。(六) もし勤務評定を強行実施するならば、現在なお強く残存している封建的人間関係や今日の労使関係政治情勢が評定を大きく左右する結果を招くことが容易に予想される。(七) 現在の情勢と条件の下における勤務評定は、科学的な人事管理を行い教育効果を全体として高めるために効果を期待できないばかりでなく、むしろ逆効果を招来する。したがつて府教委は広く各方面の意見をきき、全く別個の観点から総合的な計画をたててそれを実践に移すべきである。(八) 勤務評定に関しては公開の原則が貫かれ、かつ被評定者の異議申立権が保障されるべきであるとの有力な意見がある。(九) 今日教育行政官公庁のなすべき最も基本的なさし迫つた任務は、今日のさまざまな厳しい諸条件をいかに改善するかについて十分な考慮を払い周到な計画を樹立し、その具体化に全努力を傾注することである。勤務評定を十分な研究と検討を経ず強行実施しようとすることは教育のために百害あつて一利なき暴挙といわなければならない。以上九項目について府教委の見解を明らかにされたい」というのである。その間にも闘争態勢は更に固められ、同年六月三日に開かれた大教組第四六回臨時大会において、「各支部は支部臨時大会を開き休暇闘争及び宿日直拒否闘争体制を完備する。休暇闘争の内容は二、二、三、三割及び一〇割休暇闘争とし、六月一九日の臨時大会で決定する」との決定がなされ、ついで同月一九日に開かれた大教組第四七回臨時大会において、「(一) 和歌山県教組の第二波休暇闘争第三日目に日教組の指令に基づき二割休暇闘争を行う。二割休暇闘争の行動規制は戦術委員会で決める。(二) 闘争の重要段階には、二、二、三、三割及び一〇割休暇闘争を実施する。これらの実力行使の時期方法は戦術委員会で決める」ことが決定された。

翌二〇日浜田成政大阪府教育長と大教組常任執行委員との間に行われた交渉の席上、同教育長は上記九項目の要求書に対する回答をも兼ねて七項目からなる教育長所見を発表し、かつ質問に答えて勤務評定を実施すべきものとして検討していることを明らかにした。右七項目の所見は、「(一) 教育効果を高めるためには適正な人事管理を行なうことが必要であり、勤評はその基礎資料として必要である。(二) 人事管理のため従来から行われていた勤評は科学的でないから信頼度が高くない。(三) 法律の規定は正しく理解されなければならない。(四) 勤評の内容については教職員の職務内容の特殊性を考え、全国試案にかかわることなく検討したい。(五) 勤評の主たる目的は教職員の指導助言に資することである。(六) 序列割合をつけることは避けたい。(七) 民主教育の破壊になることはあり得ない」というのである。

そこで大教組は、府教委では右教育長所見に基づき着々勤評規則制定の作業を進めているものと判断し、前記第四七回臨時大会決定に従い、和歌山県教組の第二波休暇闘争の第三日目に当る同月二五日に二割休暇闘争を実施し、更に同年七月三日に開かれた第四八回定期大会において、「(一) 七月九日から四日間、二、二、三、三割休暇闘争を実施する。(二) 右闘争にもかかわらず、府教委が強行実施の方針を撤回しない場合は、大規模の動員、部分休暇闘争の反覆実施、一〇割休暇闘争により闘いを強化する。実施の時期方法は戦術委員会で決める」ことを決定した。右決定に基づき同月四日に同月九日から四日間の二、二、三、三割休暇闘争指令が発せられたが、同月七日夜から翌八日にかけて徹宵府教委と大教組執行部との間に交渉が行われた結果、両者の間に、府教委は、同年七、八月中には勤評規則の制定をせず、同年八月末まで上記七項目の教育長所見及び九項目の要求書について大教組と交渉を行う旨の合意が成立したため、大教組常任執行委員会は同月八日右闘争指令の解除手続をとつた。

右合意に基づき、同月二三日から同年九月三日まで府教委と大教組執行部との間で交渉が行われたが、勤評実施是非論から討議しようとする大教組の主張と勤評実施の方法について討議しようとする府教委の主張とが平行線を辿つて交渉が一向に進展しなかつたため、大教組は、同年八月二六日の第四九回臨時大会において、「(一) 同年九月九、一〇日に九月第一波闘争として、二割休暇闘争を行う(二) 同月一五日日教組指令により正午授業打切り全国統一行動に参加する。(三) 府教委が全国統一行動の時期を避け、その後強行制定を狙つてくるときは、九月第一波及び第二波闘争を上廻る休暇闘争を実施する。この内容、時期、方法は戦術委員会で決定する」ことを決定した。一方同年九月三日の交渉の席上浜田大阪府教育長は、教員の勤務評定案の構想、勤務評定の目的及び着眼点を発表し、これに対して大教組は直ちにその撤回及び勤評作業中止を要求した書面を提出し、交渉は全く決裂したので、大教組では上記第四九回臨時大会の決定に従い、同月九、一〇日の両日にそれぞれ二割休暇闘争、同月一五日に正午授業打切り半日休暇闘争を実施した。

かくするうちに、府教委は、同月二五日勤務評定規則案及び実施要領案を発表し、府下各市町村教育委員会や校長会の意見を求めるとともに、これを大教組執行委員長である被告人片山にも交付してその意見を求めた。同被告人はその受領を拒否して上記九項目の要求書に基づく交渉の再開を求めたが、府教委によつて拒否された。かような情勢下に同月二七日寝屋川市立第一中学校で開かれた大教組第五〇回臨時大会において、常任執行委員会は、「府教委に対し勤評実施方針の撤回を要求して一〇月中旬正午授業打切り半日休暇闘争を実施する」旨の提案をなしたところ、布施支部伏見格之助代議員から「府教委がなお強行制定の挙に出た場合には全日一〇割休暇闘争を行う」旨の起項修正案が提出され、討議の結果右修正案が執行部原案に追加されて決定され、右決定に従い、同年一〇月一四日正午授業打切り半日休暇闘争が実施された。ついで同月一三日岸和田市立中央小学校で開かれた第五一回臨時大会において、「同月一四、一五日の日教組臨時大会の決定による全国統一行動に参加し同月二八日正午授業カツトを行う」ことが決定されるとともにさきの第五〇回寝屋川大会で決定された勤評規則制定の場合の全日一〇割休暇闘争が確認され、右決定に基づき同月二八日正午授業打切り半日休暇闘争が実施された。

一方府教委ではさきに発表した勤務評定規則案及び実施要領案に細い修正を施した上、同月二九日開催の教育委員会において、「大阪府立高等学校等職員の勤務評定に関する規則」及び「府費負担教職員の勤務評定に関する規則」を制定し、同月三一日公布施行するとともに「大阪府下公立学校職員の勤務評定実施要領」を発表した。右勤評規則制定に接した大教組は、同月二九日午後二時四〇分頃から夕陽丘会館において第五二回臨時大会を開き、常任執行委員会より、「一一月五日総評の第四次全国統一行動日に、勤評阻止警察官職務執行法(以下警職法と略称する)改悪反対弾圧反対を中心目標として全日一〇割休暇闘争を実施する。このたたかいを組織するために、各支部分会は勤評問題の経過、道徳教育時間特設、改悪学習指導要領の問題とともに警職法問題の討議を十分行うための集会を開く。特に一一月二日又は三日のうち一日は分会会議又は支部会議を行なうようにする。なお可能な限りこの両日のうち一日は共闘組織又は父母との合同集会を開く」こと等を内容とする執行部原案を提出し、長時間の討議の後、賛成三一一票、反対七四票、保留若干をもつて右原案を可決した。そしてここに一〇割休暇闘争というのは、大教組に加入している教職員全員が学校長に当日の年次有給休暇届を提出し、時季変更権者である学校長ないし各教育委員会の承認の有無即ち時季変更権行使の有無にかかわらず就労しないことを指すものと理解されていた。その後、

(1)  府高支部では、同年一〇月三〇日大阪府教育会館で開かれた第一一七回中央委員会において、被告人小巻の挨拶の後、被告人村田より右第五二回臨時大会の決定その他の経過報告がなされ、挙手採決の結果多数で右一〇割休暇闘争に参加することを確認した。

(2)  岸和田支部では、同月三〇日岸和田市立城内小学校で開かれた分会代表者会議において、被告人星田より右第五二回臨時大会の決定その他の経過報告がなされた。

(3)  布施支部では、同月三〇日施市立第六小学校で開かれた分会代表者会議(支部委員会ともいう)において、同支部長伏見格之助より右第五二回臨時大会の決定が報告され、被告人樫原より経過報告とともに後に戦術委員会において決定された行動規制の大綱の報告がなされた上、各分会の情勢報告がなされた。

(4)  高槻支部では、同月三〇日高槻市立第一中学校で開かれた全分会委員合同会議において、被告人中西より右第五二回臨時大会の決定が報告された上、右一〇割休暇闘争に関する協議がなされた。

(5)  池田支部では、同月三〇日池田市立池田中学校で開かれた拡大闘争委員会において、被告人平山より右第五二回臨時大会の決定その他の経過が報告され、翌三一日同市立呉服小学校で開かれた支部臨時大会において、同被告人より、右同様の経過報告に引き続き右一〇割休暇闘争に対する池田支部の態度をきめてもらいたいと提案し、同支部長石川清より市長あつ旋の経過報告があつた後、無記名投票の結果右一〇割休暇闘争参加を確認した。

(6)  三島支部では、同月三〇日茨木労働会館及び茨木市立茨木小学校で開かれた拡大闘争委員会において、被告人三浦より第五二回臨時大会の決定その他の経過報告がなされた上、右一〇割休暇闘争参加態勢について協議した。

(四)  公訴事実及びこれに関連する事実

大教組では、上記第五二回臨時大会で決定された一〇割休暇闘争を実施するため、昭和三三年一〇月三一日常任執行委員会を開いて右一〇割休暇闘争実施のための行動規制案を作成し、同日午後六時頃から大阪府教育会館において戦術委員会を招集した。右戦術委員会は被告人片山、同東谷、同井上、同山下、同小笠原、同小巻、同星田、相被告人鈴木のほか布施支部長伏見格之助、高槻支部副支部長野村淑郎、三島支部副支部長田主信生等戦術委員多数が出席して開かれたが、その席上まず被告人片山より日教組中央執行委員長小林武名義の大教組執行委員長片山巌宛の同年一一月五日の一〇割休暇闘争実施指令が口頭で発表され、ついで、被告人東谷において、今回の闘争については文書指令を出さず、この席で口頭をもつて指令にかえると述べて、右行動規制案を提案し、若干の討議を経て全員一致をもつてこれを決定するとともに常任執行委員会より右行動規制を含む一〇割休暇闘争実施の指令が発出された(指令の発出及び指令と行動規制との関係についてなお後に説明する)。右行動規制の要旨は、「(一) 一一月五日午前九時より各都市の集会(地公法四六条の勤務条件に関する措置の要求をすることもその集会の目的の一つとなつていた)を開き、午後一時より扇町プールにおける警職法反対総決起大会に参加する。(二) 一一月一日又は二日にブロツク共闘会議を開く。(三) 一一月二日、三日のうち一日は必ず支部又は分会毎の集会を開く。(四) 父母集会を一一月二日乃至四日の間に開く。 (五) 教え子対策として、「明日先生は学校を休む、だから学校で勉強はできないので、お家で勉強して下さい」という父母宛のパンフレツトを配布する。(六) 他府県オルグは一一月二日からブロツクに配置する。(七) 振替授業は採用しない。ただし、学校長市教委が臨時休校措置をとることは組合の勝利であるから認める」というのである。そこで、

(1)  府高支部では、同年一一月二日府立清水谷高等学校で開かれた分会代表者会議において、被告人小巻の挨拶の後、被告人村田が、府立高等学校教職員である府立淀川工業高等学校分会代表者高橋留雄等約六〇名の分会代表者等に対し、上記大教組の行動規制に集会の時刻場所等を補充した同支部の行動規制を口頭で告知し、各分会より情勢報告を受けた後、同被告人が大教組で一〇割休暇闘争を決定したのであるから闘争参加の困難な分会も努力して参加してもらいたいと述べ、もつて右被告人両名共同して右一〇割休暇闘争実施の指令を伝達した。

右行動規制を含む一〇割休暇闘争実施指令は同月四日頃までの間にその余の府高支部組合員の大部分の者に伝達されたと推認されるが、一部の分会(府立高津高等学校定時制分会等)において、右分会代表者会議に出席した分会員等又はこれから伝達を受けた分会役員等から当該分会の分会会議等でそれぞれ所属分会員に伝達されたことを認めることができるほかその伝達の経路は明らかでない。

検察官が冒頭陳述において主張する、被告人小巻、同村田が同月四日大阪中央郵便局より「五ヒ一〇ジキヨウイクトウマエニゼンインアツマレフコウ」「五ヒ一〇ジハ五ヒ七ジ三〇トテイセイ」「五ヒ九ジ三〇キヨウイクトウマエニゼンインアツマレ」との電報合計一〇〇通を発信したとの事実については、右各電報が同郵便局より発信された事実はこれを認めることができるが、右被告人両名が自らこれを発信し、又は他人をしてこれを発信せしめた事実を認めるに足る証拠はない。

(2)  岸和田支部では、同月二日岸和田市立大宮小学校で開かれた拡大闘争委員会において、各分会から右一〇割休暇闘争参加態勢の報告がなされた後、お互いに右闘争に参加できるよう努力しようとの申し合わせがなされ、ついで同月四日から同月五日早朝にかけて同市立中央小学校及び朝陽小学校で開かれた分会代表者会議において、同支部長岩橋太吉の右一〇割休暇闘争を成功させてもらいたい旨の挨拶に引き続き、各会会からそれぞれ情勢報告がなされた後、前記大教組の行動規制に同支部の集会の時刻場所等を補充した同支部の行動規制を黒板に書いた上、被告人星田が、同市立学校教職員である同市立鳥取中学校分会責任者秦照雄等約二〇名の分会責任者等に対し、右行動規制を口頭で告知し、さらに「岸教組としては一〇割休暇闘争に参加する。闘争参加の困難な分会についても闘争に参加させるよう最後まで努力せられたい」と述べ、もつて右一〇割休暇闘争実施の指令を伝達した。

右行動規制を含む一〇割休暇闘争実施の指令は、同月五日朝までに右分会代表者会議出席者を除くその余の同支部組合員の多数の者に伝達されたと推認されるが、一部の分会(同市立中央小学校分会等)において、右分会代表者会議に出席した分会役員等から当該分会の分会会議等でそれぞれ所属分会員に伝達されたことを認めることができるほかその伝達の経路は明らかでない。

(3)  布施支部では、同月一日布施市立第四小学校で開かれた分会代表者会議において、上記大教組の行動規制に同支部の集会の時刻場所等を補充した同支部の行動規制を黒板に書いた上、同支部長伏見格之助の右一〇割休暇闘争参加に努力してもらいたい旨の挨拶及び他支部の情勢報告に引き続き、被告人樫原が、同市立学校教職員である同市立第三小学校分会責任者三宅一平等約三〇名の分会責任者等に対し、右行動規制を口頭で告知し、もつて右一〇割休暇闘争実施の指令を伝達した。

右行動規制を含む一〇割休暇闘争実施指令は同月四日頃までの間にその余の布施支部組合員の大部分の者に伝達されたと推認されるが、一部の分会(同市立第三小学校分会等)において、右分会代表者会議に出席した分会役員等から当該分会の分会会議等でそれぞれ所属分会員に伝達されたことを認めることができるほか、その伝達の経路は明らかでない。

(4)  高槻支部では、同年一〇月三一日高槻市立高槻小学校で開かれた闘争委員会において、被告人中西より上記第五二回臨時大会の経過報告がなされ、闘争参加態勢を協議中、前記大教組戦術委員会より帰つた同支部副支部長野村淑郎が出席し、その後支部役員(氏名不詳)より高槻支部の弱い線が戦術委員会においてけられたから、脱落せぬよう努力してもらいたいとの発言があつた上、野村副支部長において、出席の同支部闘争委員等に対し上記大教組の行動規制に同支部の集会時刻場所等を補充した同支部の行動規制を告知し(右事実は本件訴因に含まれていない)、ついで同年一一月一日同小学校で開かれた支部臨時大会において、同市立学校教職員である同支部組合員約二〇〇名に対し右行動規制の大綱をも記載した第二九回臨時大会議案書(一一月五日闘争の件及び当面闘争の件)を配布した上、同支部長河野和夫の挨拶に引き続き、被告人中西が経過報告をなした後、討議票決の結果多数をもつて右一〇割休暇闘争参加を確認し、ついで野本副支部長が同支部の右行動規制を告知し、もつて同人において右一〇割休暇闘争実施の指令を伝達した。

右行動規制を含む一〇割休暇闘争実施指令は同月四日頃までの間に右闘争委員会及び支部臨時大会出席者を除くその余の同支部組合員の大部分の者に伝達されたと推認されるが、一部の分会(同市立磐手小学校分校等)において、右闘争委員会に出席した分会役員等から当該分会の分会会議でそれぞれ所属分会員に伝達されたことを認めることができるほか、その伝達の経路は明らかでない。

(5)  枚方支部では、同月一日枚方市立蹉小学校で開かれた支部臨時大会において、相被告人鈴木より同月五日一〇割休暇闘争確認の件を提案したところ同市立枚方第一中学校教諭北牧幸雄が正午授業打切りの意見を述べたのに対し、相被告人鈴木が「大教組は一つの組織になつており、枚方はその一支部であるから、大教組で一〇割休暇闘争がきまれば当支部では当然この決定に従わなければならない。当支部としてはこれを確認するだけで修正したり賛否を問うことはできない。いま我々は支部として具体的にどの様に闘争を進めるかを論議すべきである」と述べ、更に上記大教組の行動規制に同支部の集会の時刻場所等を補充した同支部の行動規制を黒板に書いた上、同市立学校教職員である同市立山田小学校分会員沢田幸雄等約二〇〇名の同支部組合員に対し、相被告人鈴木が、口頭で右行動規制を告知するとともに、「行動規制は多岐にわたるので、後刻闘争委員会を開いてもう一度確認してもらう」と述べて、右一〇割休暇闘争実施の指令を伝達し、引き続き蹉小学校で開かれた支部闘争委員会でも相被告人鈴木より出席闘争委員等に対し再度右行動規制を告知した。

右行動規制を含む一〇割休暇闘争実施指令は、同月四日頃までの間にその余の同支部組合員の大部分の者に伝達されたと推認されるが、その伝達の経路は明らかでない。

(6)  池田支部では、同月一日池田市立池田中学校で開かれた分会代表者会議において、被告人平山が、同市立学校教職員である同市立呉服小学校分会責任者徳好荘三等約一〇名の分会責任者等に対し、「今回の闘争については大教組から文書指令は出ず、口頭で指令を受けた」と述べた上、上記大教組の行動規制に同支部の集会の時刻場所等を補充して同支部執行部が作成した行動規制を提案決定し、もつて右一〇割休暇闘争実施の指令を伝達し、更に同月四日同中学校で開かれた支部臨時大会において、同支部長石川清より一〇割休暇闘争確認の件を提案し多数をもつて右闘争参加を確認した後、被告人平山において出席の同支部組合員約二三〇名に対し右行動規制の一部を告知した。

右行動規制を含む一〇割休暇闘争実施指令は、同月四日頃までの間に、右分会代表者会議出席者を除くその余の同支部組合員の大部分の者に伝達されたと推認されるが、一部の分会(同市立池田小学校分会等)において右分会代表者会議に出席した分会役員等から当該分会の分会会議等がそれぞれ所属分会員に伝達されたことを認めることができるほか、その伝達の経路は明らかでない。

(7)  三島支部では、同月一日茨木労働会館で開かれた支部全員集会において、同支部長大坪義之の挨拶に引き続き、被告人三浦が、三島町立、島本町立及び茨木市箕面市学校組合立学校教職員である同支部組合員約六〇名に対し、経過報告をなした上右一〇割休暇闘争参加確認の件を提案し拍手をもつて確認の後、上記大教組の行動規制に同支部の集会の時刻場所等を補充した同支部の行動規制を口頭で告知し、更に「支部執行部としても大教組の方針に従うことに決定したから各分会もこれに従うよう努力されたい」と述べ、もつて右一〇割休暇闘争実施の指令を伝達した。

右行動規制を含む一〇割休暇闘争実施指令は、同月四日頃までの間にその余の同支部組合員の大部分の者に伝達されたと推認されるが、一部の分会(三島町立味舌小学校分会等)において、右全員集会に出席した分会員等から当該分会の分会会議等でそれぞれ所属分会員に伝達されたと認めることができるほかその伝達の経路は明らかでない。

検察官が冒頭陣述において主張する、同被告人が同月三日美松食堂における支部委員会で指令を通達したとの事実はこれを認めるべき証拠がない。

ここで右一〇割休暇闘争突入指令の発出及び伝達について若干の説明を附け加えておく。大教組は、勤評反対闘争にあたつて、上記の如く、第一六五回中央委員会において戦術委員会の設置を決定し、その権限及び構成について、「戦術委員会は、大会、中央委員会の決定を具体的に実施するために戦術をきめることを任務とし、常任執行委員、執行委員及び執行委員を出していない支部の代表者及び青年部婦人部員各四名で構成し、執行委員長を委員長とする」と定めた。

この戦術委員会の権限について、検察官は、実際に闘争に突入するかどうか、その場合如何なる方法で闘争を実施するかを決定し、その突入指令を発し或いはこれを解除する権限は戦術委員会に一任されていたと主張する。たしかに上記第四七回、第四八回及び第四九回の各大会等において休暇闘争の時期方法時には内容まで戦術委員会に一任する旨の決定がなされたことは前記の通りであり、又かかる特別の委任がなくとも決議機関の決定の範囲内で闘争の具体的戦術である行動規制を決定することがその権限に属することは右中央委員会の決定に徴して明らかである。それは勤評反対闘争に当り、執行機関である常任執行委員会の果すべき任務の重要性にかんがみ、その強化のために設けられたものであつて規約外の臨時的機関であるからといつてその事実上果す機能の重要性を否定することはできない。もつとも大教組が勤評反対闘争につき現実に闘争を行なつた場合は、上記の如くその時期内容が殆ど大会で決定され、戦術委員会の任務は事実上もつぱら行動規制を決定するにとどまつているが、行動規制と雖も、闘争実施上重要な機能を営むことの少くないことは多言を要しないところである。

しかしながら行動規制の決定と所属組合員に対し闘争実施を命ずる指令の発出とは区別せられるべき事柄であつて、行動規制の決定及び伝達がそのまま闘争指令の発出及び伝達となるものでないことはいうまでもない。労働者の団体の最高の決議機関である大会において一定の闘争方針が決定された場合、特段の事情変更がない限り、大会決定の趣旨に従いこれを有効に実施するための闘争指令を発することはその執行機関の最も重要な任務の一つであり、大教組規約によれば、大教組においてその権限は常任執行委員会に属する。そして戦術委員会の設置をきめた上記第一六五回中央委員会の決定も右規約上の原則を変更し、戦術委員会に指令の発出権を附与したものとは認められない。これを実際の運営についてみても、各休暇闘争に際し文書をもつて発せられた数次の闘争指令は、一部大教組闘争委員長片山巌名義で発せられたものがあるほか、昭和三三年九月九、一〇日の休暇闘争以降の分についてはすべて大教組常任執行委員長片山巌名義で発せられ、戦術委員会又は同委員長名義のものは一通もなく、又上記同年七月九日より四日間の二、二、三、三割休暇闘争の解除手続は常任執行委員会によつてなされ、直ちに中央委員会の承認を経ているのであつて、これらの事情に照らせば、戦術委員会の設置にかかわらず、大教組における闘争指令の発出解除の権限は常任執行行委員会にあつたものと認めるのは相当とすべく、同年六月一九日の戦術委員会の決定を記載した野村淑郎作成のメモ(証第一五六号)に「最終責任は常執が負う」と記載されているのも右事実を裏付けるものにほかならない。

そこで、本件一一月五日の一〇割休暇闘争についてみるに、右闘争については文書による指令が発出されていないので、闘争実施指令発出の主体、時期及び方法等が一見必ずしも明白でないように思われるけれども、その行動規制が決定された同年一〇月三一日の戦術委員会の前に右闘争実施の指令が発出されたことを認むべき証拠は存しないのみならず、右闘争を除く各休暇闘争においては、すべて文書による闘争実施指令が発出され、右文書には行動規制が指令の内容として記載されるのが例となつており、しかも右休暇闘争は休暇をとつて学校を休むことのみに意義があるのではなく、むしろ地公法四六条による措置要求のための集会その他の集会を開催し、関係官公庁に対して勤評反対の意思を表明し、世論に訴えることに大きい意義を認めていたものと認められるから、闘争実施のための行動規制と別個に指令が発出されるようなことは事実上あり得ないと思われる。もつとも大教組の各支部各分会の中には、右戦術委員会で行動規制の決定される以前にすでに行動規制の大綱を下部組合員に告知し(布施支部における同月三〇日の分会代表者会議)、闘争参加準備を命じ(大阪市教職員組合執行委員長湯浅松太郎名義の葉書、証第七七号)、或いは闘争指令が発せられているものとして分会会議を開いている(布施支部布施五中分会、同弥刀小分会、三島支部三島町立味舌小分会等)ものがあるけれども、これらは、上記第五二回臨時大会の決定が右一〇割休暇闘争につき、普通行動規制とよばれているものをも含めてかなり具体的な意思決定をしていることなどの事情もあつて、支部執行部が右戦術委員会の開かれる前に、独自の判断で、決定が予想される行動規制の大綱を下部組合員に告知する等の方法によつて闘争実施の準備を開始し、或いは組合員の中に決議機関の決定と執行機関の執行処分とを必ずしも明瞭に区別して考えていない者もあつたことなどの原因によつて生じた事象であると思われ、かかる事実があつたからといつて右戦術委員会の前にすでに指令の発出があつたものとは認められない(しかし、指令が発出されたか否かということと、各支部各分会において闘争態勢が確立されていたか否かということとが別問題であることはもとより当然である。)。

而して、問題の同年一〇月三一日の戦術委員会においては、前記の如く、まず被告人片山より日教組の指令が報告された。これは、大教組では第一六七回中央委員会(昭和三二年一二月二〇日)において闘争指令権を日教組に移譲し、以後の闘争については日教組中央執行委員長名義の指令が発せられていたためであるが、日教組が連合体組織であり、大教組組合員に対する日教組執行部の事実上の統制力も大教組のそれより遙かに弱いと認められるので、右日教組の指令が直接大教組組合員に対して事実上の拘束力を有しないのは明らかである。ついで、被告人東谷において、上記の通りの発言をなした上行動規制案を提案しこれが原案通り決定されたが、以後改めて常任執行委員会を開いて指令の発出をしないまま、右行動規制が直ちに前記の通り府高支部等七支部においてそれぞれ当該支部組合員に告知された事実が明らかであり、又右戦術委員会に出席しなかつた支部に対しては別途に連絡することとしていた事実も窺われる。してみれば、右戦術委員会の席上、常任執行委員会を代表して被告人片山又は同東谷より右一〇割休暇闘争の実施を指令する旨の明示的な発言はなかつたとしても、同戦術委員会において行動規制が決定されるとともに、各支部より出席の戦術委員等によつてそれぞれ当該支部の各組合員に伝達せらるべきことを前提として、常任執行委員会によつて黙示的に右行動規制を含む一〇割休暇闘争実施指令が発出告知されたものと解するのが相当である。

かくして発せられた右行動規制を含む闘争実施指令は、府高、岸和田、布施、高槻、枚方、池田及び三島各支部執行部に伝えられたが(池田支部については、同支部より右戦術委員会に戦術委員が出席したか否か明らかでないので、その伝達の経路は詳かでない)、各支部においても支部役員から口頭又は文書によつて明示的な闘争実施指令が発せられた事実を認ゆるべき証拠はない。しかしながら、右七支部のうち高槻及び池田支部を除くその余の支部については、それぞれ上記認定の通り支部の各種集会において、支部長の挨拶、各分会の闘争態勢の報告、経過報告等が行われた上、右各支部書記長である被告人村田、同星田、同樫原、同三浦、相被告人鈴木において各支部の行動規制を告知しているのであつて、かような事情の下においては各被告人等が右行動規制を告知したときに同被告人等によつて、被告人村田については被告人小巻と共同して、右行動規制を含む闘争指令が各出席組合員に伝達されたと認めるのが相当である。池田支部については、同年一一月一日の分会代表者会議において、被告人平山の上記発言に続いて、同被告人より同支部の行動規制案が提案決定されるとともに、闘争指令が伝達されたものと認められ、同月四日に開かれた支部臨時大会においては、右行動規制の一部が徹底を期するために更に告知されたにすぎない。高槻支部については、上記認定の通り、同年一〇月三一日の闘争委員会及び同年一一月一日の支部臨時大会において、同支部副支部長野村淑郎によつて行動指令を含む闘争実施指令が伝達された事実が認められるけれども、被告人中西は右両集会において経過報告をしたのみで、同被告人が指令を伝達した事実についての証明はない。

(五)  証   拠(省略)

第三  地公法六一条四号と日本国憲法(以下憲法と略称する)一八条二八条及び三一条との関係

(一)  地公法六一条四号と憲法一八条、二八条及び三一条との関係を考察する前にまずその犯罪構成要件の意味内容を明らかにしておかねばならない。同条号は、何人たるを問わず、地公法三七条一項前段に規定する違法な行為、即ち地方公営企業に勤務する一般職に属する地方公務員及び地方公営企業労働関係法の準用を受ける単純労務者を除き、一般職に属するすべての地方公務員(以下職員と略称する)の同盟罷業、怠業その他の争議行為、又は地方公共団体の機関の活動能率を低下させる怠業的行為の遂行を共謀し、そそのかし、若しくはあおり、又はこれらの行為を企てた者に対し、三年以下の懲役又は一〇万円以下の罰金を科する旨を規定する。ここに何人たるか問わずと特に明示されていることよりみれば、同条号は犯罪行為の主体について何等の制限をも付することなく、職員であると否とを問わずすべてこれを処罰しようとする趣旨であると解するのが相当である。つぎに地公法六一条四号は、争議行為等の遂行を共謀した者を処罰する。共謀を独立犯として処罰することはわが国の法制及び法思想にとつて全く異質のことであるが、ここにいう共謀を刑法上の所謂共謀共同正犯のそれと別異のものと解すべきものとは考えられない。即ちそれは二人以上の者が地公法三七条一項所定の争議行為等を行うため、共同意思の下に一体となつて互いに他人の行為を利用し各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議をなすこと(昭和三三年五月二八日最高裁判所大法廷判決)をいうものであつて、単なる意思の連絡では足りないが、必ずしも明示的になされる必要はない。そして、「そそのかす」とは争議行為等を実行させる目的をもつて人に対しその行為を実行する決意を新に生じさせるに足る慫慂行為をなすことを意味し(昭和二九年四月二七日最高裁判所第三小法廷判決)、「あおる」とは煽動と同義語であつて、右争議行為等を実行させる目的をもつて、文書若しくは図画又は言動により、人に対しその行為を実行する決意を生ぜしめ又は既に生じている決意を助長させるような勢いのある刺激を与えることをいい(破壊活動防止法四条二項、昭和三七年二月二一日最高裁判所大法廷判決)、これらの行為を企てるとは、共謀し、若しくはそそのかし、又はあおる行為の準備をすることをいい、単にこれらの行為の実行を決意したのみでは足りないが、その決意の存在が実行に向けられた外部的行為によつて認識し得る状態に達すれば足りるものと解する。

そして、ここに争議行為といい、怠業的行為というのは、職員の個別的な欠勤遅刻早退等を指すものではなく、労働者である職員の団体により団体行動として行われるものを指称するものであることはいうまでもない。ところで、およそ労働者の団体の団体的行動である争議行為が、何人かにおいてこれを主唱し、他人の参加を勧誘するのでなければ事実上到底行なわれ難く、主唱と勧誘とが争議行為に必然の附き物であつて、多数の労働者が何人の主唱にも勧誘にもよらず、期せずして争議行為に出るが如きことのあり得ないことは何人もこれを疑い得ないところであろう。而して右に煩をいとわず掲げた定義に従うならば、争議行為を主唱し他人のこれに参加することを勧誘する行為が、地公法六一条四号にいう争議行為の遂行を共謀し、そそのかし、若しくはあおり、又はこれらの行為を企てる行為のいずれにも該当しないと解する余地は全くないといつても過言ではなく、してみれば、同条号は、争議行為に関するこれらの行為を処罰することによつて、争議行為に必然的な附き物である主唱と勧誘とを処罰し、ひいては実質上刑罰をもつて争議行為を禁止する結果となるものにほかならない。又、争議行為が労働者の団体の団体的組織的行動である実態に着目するならば、特殊な場合を除きおよそ争議行為の実行者はすべて何等かの形において争議行為遂行の謀議に関与しているものといわなければならない。まして争議行為の遂行を共謀する行為を企てた者を処罰するにおいては、争議行為参加者にして処罰を免れるものは殆どないといつてもいい過ぎではないであろう。これを要するに、地公法六一条四号は、同号所定の各行為を処罰することによつて、実質上刑罰をもつて争議行為を禁止するにとどまらず、ひいて争議行為を実行した職員そのものを殆どすべて処罰するに至る規定であることが明白であるといわなければならない。

(二)  そこで、地公法六一条四号と憲法一八条、二八条及び三一条との関係の検討に入るが、憲法三一条の法律に定める手続とは、法律の正当な手続の保障即ち法律の内容が適正であることの要請をも含むものと解するのを相当とするから、特定の行為殊に自然犯的犯罪行為でない行為に対して民事罰行政罰を科するだけでなく、これに刑罰を科することは単なる立法政策の問題にとどまるものでなく、その行為に対する合理的実質的な処罰の必要と根拠とが認められる場合でなければ許されないものといわなければならない。従つて地公法六一条四号と憲法一八条及び二八条との関係を考察する場合にも単に職員の争議行為を禁止することが右各条に違反するか否かを検討するだけでは足りず、すすんで上記のような意味で職員の争議行為を実質上処罰する実質的合理的な理由があるか否かという観点からこれが検討されなければならない。而して一方地公法六一条四号が憲法三一条の適正手続条項に違反するかの考察に当つても、強制労働禁止や争議権保障の意味を考慮することなしにこれを判断することは不可能であるから、以下便宜項目を分けて地公法六一条四号と憲法の右各条との関係を考察することにするが、これらの判断が互いに密接な相関関係にあることはいうまでもないことである。

(三)  地公法六一条四号と憲法一八条との関係

憲法一八条後段は、何人も「犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない」と規定する。ここにいう意に反する苦役とは、本人の意思に反して他人のために強制される労役をいうのであるから、労働者が個別的に労働契約に違反して労働力を提供しなかつた場合、これに刑罰をもつて臨むことが本人の意思に反して苦役に服させる結果となり、本条に違反することはいうまでもなく、特に公務員の場合だけを除外する理由もない。問題は労働者が個別的に労働契約に違反して労働を放棄する場合でなく、労働者が団体行動権の行使即ち同盟罷業その他の争議行為として集団的に労働力の提供を拒否した場合に本条が適用されるべきか否かである。周知のごとく、憲法一八条は、アメリカ合衆国憲法修正一三条の規定に由来する自由権的権利に関する規定であつて、そこに保障されているのは人身の自由であり、労働者個人の労働放棄の自由にほかならない。これに対して同盟罷業その他の争議行為はその実体において単なる労働者個人の労働放棄の集合ではなく、又これを保障する争議権は、対使用者の関係においても労働者相互の関係においても自由権としての労働放棄の自由と集団的行動の自由をこえる積極的内容をもつ権利であると解すべきであるから、争議権の制限としての争議行為の処罰の可否を憲法一八条の見地から検討するのは一見畑違いの感がしないではない。しかしながら争議権がいかに積極的内容をもつ生存権的権利であるといつても、それはあくまで自由権としての労働放棄の自由と集団的行動の自由の基礎の上に立つものであつて、人身の自由と無関係の権利ではなく、従つて争議行為に対し、労働者の団体に対する団体罰を科することは格別、争議行為をなした個々の労働者に争議行為に参加したことを理由として刑罰を科することは原則として憲法一八条に違反して許されないといわなければならない。もつとも争議行為によつて通常一般公衆の生命その他重大な法益を侵害することの予想される場合、かかる重大な法益の保護を目的として争議行為を処罰することが例外的に許容されることがあり得ると思われるけれども、これは、公共の福祉の要求により憲法一八条の強制労働禁止による権利をいかなる限度まで制限し得るかという問題であるから、後に憲法二八条の問題と併せてこれを考察することとする。

又、公務員は、自己の自由意思によつて何時でも退職できることを理由として、公務員の争議行為を処罰することは憲法一八条に違反しないという見解がある。たしかに憲法一八条はアメリカ合衆国憲法修正一三条に由来し、それは南北戦争後アフリカ奴隷の廃止を直接の目的として制定されたものである。しかしながら、同憲法修正一三条もわが憲法一八条も、単に奴隷的関係のみを対象としたものでなく、自由意思による労働関係における労働放棄の不処罰をも規定したものであることはさきに述べた通りである。のみならず、退職の自由を強調する右見解は、わが国における雇用関係の実態、即ちそれが終身雇用を原則とし、一旦ある雇用関係から離脱すると、自ら他に同等の雇用関係を求めてこれに入ることは特別の場合を除き極めて困難な事実を無視する形式的な見解であつて到底これを採用することができない。してみると上記の如く実質上争議行為をなした職員そのものを処罰することになる地公法六一条四号は、公共の福祉の要求によりその処罰の根拠が正当化されない限り、憲法一八条に違反する無効の規定といわなければならない。

(四)  地公法六一条四号と憲法二八条

憲法二八条は、勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利を保障する。ここにいう勤労者とは労働者と同じ意味であつて、職業の種類を問わず、賃金給料その他これに準ずる収入によつて生活する者を指し、公務員がこれに含まれることはいうまでもない。とはいつても、公務員に対する労働基本権が、その負担する公務の性質その他の関係から一般私企業に雇用される労働者と自ら異つた規制を受けねばならぬ場合のあることは当然であろう。しかしながら、不幸にしてわが国においては敗戦に至るまで一度も労働者の団結権団体行動権が法律上公認されたことがなかつたけれども、憲法二八条の規定する労働基本権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、過去幾多の試錬に堪え、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものであり、公務員であるからといつて、安易にその団体行動権を制限剥奪することの許されないことも又当然である。殊に公務員の争議行為に対し刑罰を科することによつてその争議権を制限剥奪することは、かりにその必要があるとしても、その範囲程度は必要最低限度にとどむべく、いやしくもこれを越えるようなことがあつてはならない。けだし、争議権確立の歴史に徴しても、争議行為に対し、民事責任を負担させ、労働者の雇用上の権利を奪うにとどまらず、これに刑罰をもつて臨むことは最も原始的にして徹底的な争議権の剥奪方法であり、かりに争議行為を禁止すべきやむを得ない事由があるとしても、それが直ちにこれに刑罰を科することを正当化する理由とはなり難いのであつて、これは又憲法三一条の要請するところでもあることはさきに述べた通りである。以下地方公務員の争議権制限剥奪の根拠として主張される事由につき各別に検討する。

(1)  全体の奉仕者

地方公務員は、地方住民全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。しかし、この点に関する憲法一五条二項の規定は、かつてわが国の官吏が天皇の官吏であつたことを否定し、公務員が国民全体の利益のために、地方公務員についていえば、地方住民全体の利益のためにその職務を行うべく、一党派や一部少数者の利益のために行動してはならないことを明らかにしたものにほかならない。即ち、憲法一五条二項は、元来、国民主権の下における公務員の職務の性質について規定したものであつて、直接公務員の勤労関係について規定したものではない。しかるに、この規定を根拠として、地方公務員の使用者は形式的には地方公共団体の機関であるが実質的には地方住民であり、地方公務員は地方住民全体に奉仕する義務を負わされているのであるから、地方公務員が地方住民を代表する地方公共団体の機関の活動を阻害する争議行為をなすことは許されないという見解が主張される。しかしながら、かかる見解は、憲法一五条二項の趣旨を正しく理解していないばかりでなく、地方公共団体の機関と地方住民と地方公務員とが全く同質である場合にのみ許される極端な形式論であり、かかる理由によつて地公法六一条四号の規定を正当化することはできない。けだし、地方公務員の実質上の使用者が地方住民であるとしても、その雇用関係の実態に着目すれば、そこには使用者である地方公共団体の当局と使用人である地方公務員とがそれぞれの利害をもつて対立し、使用者としての実質と雇用労働者としての実体とが厳として存在し、それは紛れもない近代的な使用者と労働者との関係にほかならない。勿論地方公務員の職務は地方住民全体の利益のために行われるべきものであつて、その中に著しく公共性の高いものの含まれていることはこれを否定し難く、その限りにおいて、地方公務員の争議権が或程度の制約をまぬかれ難いのは当然であるが、これは職務の公共性、従つて公共の福祉による争議権の制限の問題であるから後に項を改めて考察する。

(2)  又、地方公務員関係は私法的契約の上に成立しているのではなく、その勤務条件は住民の代表者である地方議会の定める条例によつて定められるのであるから、地方公務員の争議権はこれを禁止すべきであると主張される。もとより地方公務員の給与その他の勤務条件は地方議会の条例によつて定められることになつており、そのために職員の団体交渉権が或程度の制約を蒙ることはやむを得ないところであるが、だからといつてそれは職員の団体交渉を全面的に禁止し、争議権を制限剥奪する理由とはならない。右のような見解も、前記のように、地方公共団体の当局と地方公務員との間に存在する使用者と雇用労働者との対立の実体を無視した見解であり、かかる理由によつて、職員の争議行為に刑罰を科することは許されない。

(2)  公共の福祉

そこで、職員の争議行為を処罰し得るか否かの問題は、憲法一八条との関係においても、憲法二八条との関係においても、結局公共の福祉を理由としてこれを処罰し得るか否かの問題に帰着する。もとより憲法の規定する基本的人権と雖も決して無制約の権利であり得ないことはここにあらためて説くまでもない。けだし、これらの基本的人権の主張は、多くの場合他人の生命、自由、財産その他の法益に関する基本的人権と矛盾衝突し、かかる場合その矛盾衝突は実質的に公平に調整されなければならず、その限りにおいてすべての基本的人権の行使が或程度の制限を免れ難いことは当然であつて、憲法一八条及び二八条に保障する権利と雖もその例外であり得ない。憲法一二条及び一三条にいう公共の福祉もかような意味における権利の制約原理をあらわしたものであつて、それは、敗戦前のわが国においてそれが意味したように、個人の利益の全体の利益への献身を意味するものでなく、すべての国民にひとしく基本的人権が享受さるべきこと即ち基本的人権相互間の矛盾衝突を調整するための実質的公平の原理をいうものにほかならない。従つて憲法で保障された基本的人権を制限剥奪する法規の合憲であるか違憲であるかを判断するには、その制限剥奪によつてもたらされる利益とこれによつて失われる利益とを具体的に比較して、人権相互間の矛盾衝突の実質的に公平な調整のために必要な制限剥奪であるかどうかを判断しなければならない。

ところで、公務員のそれであろうと一般私企業労働者のそれであろうとも、およそ争議行為である限り、直接の使用者ばかりでなく、一般の公衆にまで多かれ少かれ迷惑を及ぼすのが通常である。合理的な秩序ある社会において、人間がその意見の相違をかかる争議行為に訴えて解決することは決して賢明な方策であるとはいえないであろう。にもかかわらず、われわれの現実の社会においては、使用者による強制労働を容認するか、さもなければ労働者の争議権を承認するか、そのいずれかを選択しなければならないのが実際であつて、労働者にしてみれば憲法二八条の保障する争議権は、自己の経済的地位の向上維持のための有効な唯一の手段といつても言い過ぎではないであろう。かかる事情は近代的な労使関係の存在するところには常に存在するのであつて、地方公務員と雖も――特に後記のように不完全な代償措置の下においてはなおさらのこと――決してその例外であり得ない。地公法六一条四号が刑罰による制裁を設けて剥奪している職員の争議権は近代社会においてかような意味を有する権利である。

一方これに対して地公法六一条四号の保護しようとする利益は、職員の争議行為によつて地方住民の蒙るべき不利益にほかならない。ところが、地公法の右規定は、上記の如く実質上すべての職員の争議行為を一律かつ全面的に処罰しており、ここにいう職員が、地方公営企業労働関係法の適用及び準用を受ける企業職員及び単純労務者を除くすべての一般職地方公務員をいうものであることは、さきに述べた通りである。従つてその中には警察消防職員もあれば市営運動場の管理人も含まれるというように、本来の地方行政作用を担当或いは補助する者だけでなく、所謂現業公務員に至るまで、職務の種類と責任を問わず、ひろく多種多様の地方公務員を包含し、その争議行為によつて地方住民の蒙るべき不利益も一様でなく、中にはその不利益のとるに足らぬと思われるものも存在する。かように多種多様の職員の争議行為を一律かつ全面的に刑罰をもつて禁止しようとすることは、公共の福祉を基本的人権相互間の矛盾衝突の調整原理と解する立場から到底是認し得ないものといわなければならない。

のみならず、職員の争議行為を禁止し、これに刑罰をもつて臨むためには単に地方住民の利益を保護すべき合理的な事由が存在するだけでは足りず、その代償として、適正な勤務条件を確保するための有効な手段が講ぜられなければならない。そこでこの点について検討すると、地公法は、職員の給与は生計費並びに国及び他の地方公共団体の職員並びに民間事業の従事者の給与その他の事情を考慮し、その職務と責任に応じて条例で定め、給与以外の勤務条件は国及び他の地方公共団体の職員との間に権衡を失しないように適正な考慮を払つて条例で定めることとし(二四条)、都道府県及び一部の市には人事委員会を、その余の市町村には公平委員会を置き(七条、九条)、人事委員会に対しては、職員に関する条例の制定又は改廃に際し、地方公共団体の議会及び長に意見を申し出ること、人事行政の運営に関し任命権者に勧告すること、職員の給与が地公法及びこれに基づく条例に適合して行われることを確保するために必要な範囲において、職員に対する給与の支払を監理すること、毎年少くとも一回、給料表が適正であるかどうかについて地方公共団体の議会及び長に同時に報告し、給与を決定する諸条件の変化により給料表に定める給料額を増減することが適当であると認めるときは、あわせて適当な勧告をすることができること、職員の給与、勤務時間その他の勤務条件に関する措置の要求を審査し、判定し、及び必要な措置をとること、職員に対する不利益な処分を審査し、及び必要な措置をとること等の権限を付与し、公平委員会に対しても、右のうち措置要求の審査及び不利益処分の審査に関する権限を付与し(七条、八条、二六条、四七条、五〇条)、一方職員に対しては、給与、勤務時間その他の勤務条件に関し、人事委員会又は公平委員会に対して、地方公共団体の当局により適当な措置がとられるべきことを要求することができ、又懲戒その他その意に反する不利益な処分を受けたときは、人事委員会又は公平委員会に対し、当該処分の審査の請求をすることができることと定めている(四六条、四九条)。しかしながら、右に述べた職員の給与その他の勤務条件に関する規定並びに人事委員会の勧告及び意見等が、職員の適正な勤務条件を確保する機能を発揮するためには、これらが地方公共団体の機関によつて誠実に実施されねばならないことは当然であるが、現実には、地方公共団体の議会その他の機関が財政難等を理由にその誠実な実施をしない場合があり得るのにかかわらず、人事委員会の右各勧告及び意見には相手機関を拘束する効力がなく、単に道義的な責任を負わせるにとどまり、相手機関がこれを誠実に実施しない場合の有効な措置が講ぜられていない。そうだとすれば、地公法の規定する各種の代償措置は職員の争議権剥奪の代償として十分に有効な措置であると認めることができない。以上検討したところによれば、職員の争議行為を一律かつ全面的に刑罰をもつて禁止しようとする地公法六一条四号は、憲法一八条の強制労働禁止及び二八条の争議権保障の規定に違反することが明らかである。

次に、これを公立学校の教職員に限つて考察してみるに、かかる教職員が争議行為を行うときは、公立学校における児童生徒等の教育に支障を生じ、憲法二六条により保障される住民の教育を受ける権利が侵害されることは当然である。即ち、ここでは教職員の争議権と住民の教育を受ける権利とが矛盾衝突し、その実質的に公平な調整をはかるために、いずれの権利を如何なる程度に他方の権利より優越せしむべきかが決定されなければならない。もとより民主的で文化的な国家の建設及び世界の平和と人類の福祉に対する貢献は、根本において教育の力にまつべきものであつて、憲法二六条に規定する住民の教育を受ける権利及び子女に普通教育を受けさせる義務が、憲法上重要な権利義務であることはいうまでもない。しかしながら、さきに述べた近代社会における争議権の意義、その生存権的基本権としての性格を考慮するならば、教職員の争議権と住民の教育を受ける権利との衝突の調整に当り、いずれの権利を優越せしむべきか、これを一概に断定することは困難であつて、かりに教職員の争議権を制限する何等かの措置が必要であるとしても、地公法が規定する不完全な代償措置の下において、これをすべて完全に剥奪しその争議行為に対して刑罰をもつて臨み、一方的に住民の教育を受ける権利を優越せしめることを正当化するような事由を発見することはできない。してみると地公法六一条四号を公立学校教職員に限つて考察してみてもこれが憲法一八条及び二八条に違反しないと解する余地はないものといわなければならない。

(四)  地公法六一条四号と憲法三一条

地公法六一条四号が憲法一八条及び二八条に違反するものである以上、それは合理的な処罰の必要と根拠とが認められないものとして、憲法三一条の法の正当な手続の規定にも違反することは明らかであるが、そればかりでなく、地公法六一条四号は刑罰体系上の問題としても法の適正条項に関連して重大な問題を含んでいる。

即ち、地公法六一条四号が、実質的には争議行為実行者を殆どすべて処罰することとなることはさきに述べた通りであるが、同条号の構成要件は勿論争議行為そのものを犯罪としているものではない。即ち、地公法は、職員の争議行為を罪とならない行為としておきながら、同法六一条四号において、争議行為の実行を中心としてみれば、いずれもその前段階的行為である争議行為の遂行を共謀し、そそのかし、若しくはあおり、又はこれらの行為を企てる行為を処罰する。

そもそもわが刑法典においては、犯罪の既遂行為を処罰するのを原則とし、未遂については既遂行為の達法的評価の大きい犯罪類型に限つてこれを処罰することを各本条につき定め、さらに予備陰謀に至つては、既遂行為の違法的評価が特に重大であると認められる数個の犯罪類型例えば、内乱、外患、殺人、放火罪等に限つてこれを罰しているにすぎない。実行行為を罰しないで、予備の段階にあたる共謀又は共謀を企てる行為を処罰するが如きことは、わが国の刑罰体系上本条号と同旨の規定である国家公務員法一一〇条一項一七号以外全くその類例がないといつてよい。又教唆犯幇助犯の場合、所謂共犯の従属性として、本犯が犯罪行為を実行した場合に限つて可罰性を有するものとされていることはいうまでもない。もとより特別法の中には、本犯が犯罪の実行行為に出なくても、独立して教唆又は煽動者を処罰する規定があるけれども、これは本来の刑罰体系からみれば例外的措置であつて、本犯の実行行為の違法的評価が特に重大であるため、本犯が実行行為に出ない場合でもなお教唆者煽動者を処罰しなければならない必要がある場合に限つて、その処罰が許されるにすぎない。地公法六一条四号の如く、争議行為そのものは罪とならないとしながら、その遂行をそそのかし、若しくはあおる行為を処罰するが如き異例の立法は特別法中にも殆どその例がない。検察官は、争議行為の遂行を共謀し、そそのかし、若しくはあおり、又はこれらの行為を企てる行為は実行行為の前段階の行為であるが、反社会性の大なる行為であるから、これを実行の前段階で処罰して実行を未然に防止し、法秩序の混乱を最少限度にとどめんとすることは不合理でないと主張する。しかしながら、行為の違法的評価は、その行為が実行され、現実に法益の侵害されるに至つて最も大きくなるものであることは争う余地がない。勿論争議行為をそそのかし若しくはあおる行為が争議行為の原動力となり得ることは当然であるが、各関与者間における責任の軽重は別として、その違法的評価は、これらの行為が現実化し争議行為が実行された場合のそれに及ばないのが一般であつて、集団的行動といつてもその例外ではない。それならばこそ、刑法は前記の如く犯罪の発展段階に応じて可罰的評価を異にし、共犯の従属性を認めているのであつて、他に特段の理由がない限り、実行行為が犯罪とならない行為であるのにかかわらず、その遂行を共謀し、そそのかし、若しくはあおり、又はこれらの行為を企てる行為を罰することについてはその合理的な処罰の理由を発見することが甚だ困難である。そして職員の争議行為一般についてかような異例の立法を必要とする特段の理由があるとは到底考えられない。かかる事由を上記の如く地公法六一条四号が憲法一八条及び二八条に違反する点と併せ考えると、地公法六一条四号が、処罰の合理的実質的理由を欠き、憲法三一条の法の適正条項に違反することが愈々明白であるといわなければならない。

(五)  もとより当裁判所も、法律はなるべく合憲であるように解釈すべき原則を無視しているわけではなく、最近一審裁判所のいくつかな裁判例で、地公法六一条四号及びこれと同旨の国家公務員法一一〇条一項一七号について、これを合憲とするために各裁判所が貴重な努力を重ねて来たことを尊重しないわけではない。即ち、これらの裁判では、或いは争議行為の遂行を共謀し、そそのかし、若しくはあおり、又はこれらの行為を企てた者という概念を限定し、争議行為に直接利害関係を有しない第三者が争議行為に容喙してその遂行を謀議し、煽動し又はこれらの行為を企てた場合、たとえ公務員であつてもその団体の行動とは全く無関係な立場において争議行為の遂行を謀議し、煽動し、又はこれらの行為を企てた場合、公務員がその団体の意思に従つたものであつても、謀議、煽動の手段が争議行為に際して通常行われる方法を逸脱し、特に激越なものである場合に限られるべきものであるとし、或いは地公法六一条四号にいう共謀は、刑法六〇条の共同正犯等について講学上又は判例上通常用いられている共謀の概念中より争議行為の一般参加者に止まる者による共謀を除き、それ以外の者による、そして何らかの意味でかかる一般参加者の行為に比しより重要な役割を認められる共謀を意味するものと解し、そそのかし、又はあおる行為についても、これを不当又は不公正な方法で行われるものに限るべきとしている(東京地方裁判所昭和三七年四月一八日地方公務員法違反被告事件判決、同裁判所昭和三八年四月一九日国家公務員法違反被告事件判決、福岡地方裁判所昭和三七年一二月二一日地方公務員法違反被告事件判決)。しかしながら、これらの見解は、地公法六一条四号及び国家公務員法一一〇条一項一七号の規定の構成要件の内容を適正ならしめるために努力した結果、その内容を複雑かつ漠然たらしめて、憲法三一条の要請の一つである構成要件の明確性に背反し、結局憲法三一条に忠実であろうとして却つてそれに背馳するに至つたとの譏りをまぬかれることができない。

又佐賀地方裁判所昭和三七年八月二七日地公法違反被告事件判決は、地公法三七条一項が職員の争議行為を禁止するのはそれが多くの場合公共の福祉に反するおそれがあるからであり、従つて同条は具体的に公共の福祉に反するおそれのないことが明らかな争議行為までも禁止する法意でなく、公共の福祉に反するおそれがないことが明らかな争議行為は、地公法三七条一項、六一条四号にいわゆる争議行為にあたらないという。もとよりある法律が合憲であるとしても、それを具体的事実に適用した場合違憲であるとの判断を受ける場合のあることは否定できないけれども、かかる事例は極めて例外の事態であるべきであつて、争議行為の中に公共の福祉に反する争議と然らざる争議のあることを予定し、各個の訴訟においてそのいずれであるかを判断すべきものとなすが如きは徒に訴訟を煩雑ならしめるばかりでなく、被告人被疑者の地位を甚だ不安定ならしめるものであつて、かかる見解にも賛同できない。

してみると、地公法六一条四号は憲法一八条、二八条及び三一条に違反する無効の規定であることが明らかであるから、かりに上記認定の被告人等の各行為がこれに該当するとしても、罪とならないことはいうまでもない。

第四のみならず、被告人等の上記認定の各所為は、いずれも地公法六一条四号、三七条一項にいう同盟罷業の遂行をあおつたものに該当しない。

(一)  地公法三七条一項は、職員は地方公共団体の機関が代表する使用者としての住民に対して同盟罷業をしてはならないと規定しており、ここにいわゆる同盟罷業とは、職員の団体がその主張を貫徹するために団体の統制の下に職員の労務の提供を集団的に停止させ、その結果当該地方公共団体の業務の正常な運営を阻害する行為を指称するものと解するが、一方本件一一月五日の一〇割休暇闘争は、上記の通り、勤評阻止警職法改悪反対弾圧反対を目的として大教組組合員である大阪府下公立学校教職員全員が当日年次有給休暇届を提出し、使用者の時季変更権行使の有無にかかわらず、就労しないで各地で開かれる地公法四六条の措置要求のための集会などに参加するというのである。従つて、右休暇闘争が同盟罷業にあたるか否かを判断するには、有給休暇請求権の行使と同盟罷業との関係、措置要求と同盟罷業との関係、業務の正常な運営の阻害の有無、住民に対する対抗性の各項目について検討されなければならない。

(1)  有給休暇請求権の行使と同盟罷業

地方公務員である公立学校教職員には労働基準法三九条により年次有給休暇が認められていることはいうまでもない。有給休暇請求権の法律的性質については争いのあるところであるが、同条三項が、就労義務を免除さるべき労働日はまず労働者の意思によつてこれを特定すべきものとし、ただ事業の正常な運営を妨げる場合に限つて使用者がこれを拒否し、別の時季に休暇を与えることができる旨を規定しているところからすると、有給休暇の請求に対し、使用者が相当の期間内に時季変更権を行使しない限り、その有給休暇請求によつて特定された労働日の就労義務は当然消滅すべく、この限りにおいて有給休暇の請求は形成的な効力をもつものといわなければならない。

ところで、およそ休暇は使用者が労働者の労働力を支配していることを前提とするものであるのに反し、同盟罷業は集団的に労働力を引きあげ、使用者の労働力に対する支配を一時的に排除することを本質とするものであつて、休暇と同盟罷業とは本質上相容れない性質をもつものといわなければならない。しかしながら年次有給休暇請求権が権利として確立されている以上、労働者が有給休暇をどのように利用しようと自由であつて、使用者は労働者に如何なる目的に有給休暇を使用するかを陳述させたり、目的の如何によつて休暇を与えることを拒否したりすることはできない。そうだとすると、たとえ労働者が争議目的をもつて有給休暇の請求をなしたとしても、それが労働基準法に基づく年次有給休暇請求権の行使としてなされ、かつ権利の濫用にわたり就労義務消滅の効果を生じない場合でないならば、使用者はこれに対して時季変更権を行使し得るにすぎない。これを本件についてみると、右一〇割休暇闘争は、大教組の機関の決定に基づきその統制に従つて、大教組の組合員である府下公立学校教職員全員が、上記の通り有給休暇を請求し時季変更権行使の有無にかかわりなく就労せず、職場を離脱しようとするものであつて、それが事業の正常な運営を阻害することは疑いがなく(この点はなお後に説明する)、しかも本件各証拠によれば、右闘争による休暇届の提出時期は大会決定にも行動規制にも明示されていないけれども、従前の各休暇闘争においても闘争前日の午後に提出されることが多く、これが慣行化しており(前日午後に休暇届を提出するよう行動規制に定めたこともある)、右一一月五日の場合にも執行部及び各組合員間でほぼ前日の午後あたりにこれを提出するものと考えられていたものと推認され(実際には大部分前日の午後に提出され、中には闘争当日の朝提出されたものもある)、かような大量の休暇届提出に対し、時季変更権者である学校長ないし教育委員会が時季変更権を適切に行使するに十分な期間において提出することを予定していたものとも認められない。してみると、右一〇割休暇闘争は、有給休暇請求権の濫用であつて、正当な有給休暇請求権行使の法律上の効果を発生する余地がないといわざるを得ず、同盟罷業としての実体を有するものと評価すべきである。

(2)  措置要求と同盟罷業

上記第五二回臨時大会の決定に基づき指令された一一月五日の一〇割休暇闘争が、各組合員において休暇をとり、当日の午前中各都市毎に地公法四六条の措置要求をなすことをもその目的の一つとする集会を開いてこれに参加すべきことを内容とするものであることはさきに認定した通りである。そして、地方公務員である教職員が、地公法四六条により、給与勤務時間その他の勤務条件に関し、人事委員会に対して地方公共団体の当局により適当な措置がとられるべきことを要求する権利を有していることは多言を要しない。

しかしながら、措置要求権の行使は職員が個別的に或いは職員の団体を通じその代表者によつてそれを行うことができ、又そのために集会を開く必要があるとしても、勤務する機関の業務の正常な運営を阻害しないように休日若しくは勤務時間外にこれを開催することによつて十分その目的を達することができる筈である。そして大阪府における勤務条件に関する措置の要求に関する規則(昭和三六年一〇月一日大阪府人事委員会規則四号)によれば、措置要求の方式は人事委員会に対して書面を提出すれば足りることと定められている。そうだとすれば、大教組所属の府下公立学校の教職員全員が、措置要求をなすために就労せずに職場を離脱し、集会を開くような必要があるとは到底認め難いので、右一〇割休暇闘争は、措置要求集会参加のためのものであつても上記の如く同盟罷業の実体を備えている以上、同盟罷業として評価されてもやむを得ないものといわなければならない。

(3)  正常な業務の運営の阻害の有無

右一〇割休暇闘争を同盟罷業であるというためには、これによつて学校業務の正常な運営が阻害されるものでなければならないことは当然である。

およそ公立小、中、高等学校の業務が、児童生徒に対して初等中等普通教育又は高等普通教育及び専門教育を施すことを内容とすることは明らかであつて、平日これらの学校においては教職員により児童生徒に対する教育活動が行われることが常態であることはいうまでもない。これらの学校において、平日教職員の大部分の者が共同して職場を離脱し、児童生徒に対する教育活動を平常通り行うことを不可能にし、或いは極めて困難な状態に陥らせることは、異常な事態であつて、かかる事態を発生せしめる場合には、その結果年間の教育計画に影響があるか否かを問うまでもなく、これらの学校の業務の正常な運営を阻害するものというべきである。これを本件についてみるに、上記第五二回臨時大会決定に基づいて指令された一〇割休暇闘争は、上記の通り、大教組の組合員である府下公立小、中、高等学校教職員全員が、当日共同して就労せずに職場を離脱しようというのであるから、前示行動規制に教え子対策として父母宛のパンフレツトを配布することを定めて指令しても、その結果その日の児童生徒に対する教育活動を平常通り行うことを不可能にし、或いは極めて困難な状態に陥らせるに至るべきことは明らかであつて、右一〇割休暇闘争が府下公立小、中、高等学校の業務の正常な運営を阻害する(事業の正常な運営をも阻害する)ものであることは多言を要しないものといわなければならない。

(4)  使用者としての住民に対する対抗性

地公法三七条一項、六一条四号は、職員の争議行為を禁止しかつこれに対する一定の行為を処罰することによつて、職員の役務の提供により地方住民の受ける利益を保護することを目的とするものと解されるから、労働関係調整法にいう争議行為の場合と異り、ここにいう争議行為については労働関係の当事者即ち職員の団体と地方公共団体の機関乃至住民との間に必ずしも意見の不一致が存在することを必要とするものとは考えられない。にもかかわらず、同法三七条一項に特に地方公共団体の機関が代表する使用者としての住民に対して同盟罷業その他の争議行為をしてはならないと規定したのは如何なる意味をもつものであろうか。この点については、同条項が職員の争議行為を禁止する根拠を職員の形式上の使用者は地方公共団体の機関であるがその実質上の使用者は当該地方の住民全体であることに求めていると考えられることから判断すると、同条項は職員の争議行為を禁止できるのはその形式上の使用者である機関が制度上地方住民を代表する場合に限られるべきであるという考え方に立つているものとみるのが相当であり、そうだとすれば、同条項に右のような要件を附しているのは、職員の争議行為禁止のための要件として、従つて又同法六一条四号の犯罪構成要件として、当該地方公共団体の機関と地方住民との間に制度上代表関係の存在することが保障されていなければならないことを定めたものと解しなければならない。

これを本件についてみれば、大教組組合員である大阪府下公立小、中、高等学校教職員に対する形式上の使用者は府及び府下市町村の各教育委員会であるところ、地方教育行政法三条によれば、教育委員会は五人ないし三人の教育委員をもつて組織され、同法四条によれば、教育委員は当該地方公共団体の長の被選挙権を有する者で、人格が高潔で教育学術及び文化に関し識見を有する者のうちから、地方公共団体の長が議会の同意を得て任命することに定められており、右規定によれば、現在の各教育委員会は、間接的ではあるがなお制度上住民を代表するものといつて差支えないものと考える。

以上に述べたところにより、右一〇割休暇闘争が地公法六一条四号、三七条一項にいう同盟罷業にあたることは明白であるといわなければならない。

(二)  そこですすんで前記第二、(四)(1)乃至(7)に認定した被告人小巻、同村田、同星田、同樫原、同中西、同平山、同三浦(以下実行被告人等と略称する)及び相被告人鈴木の各行為が同盟罷業の遂行をあおる行為に該当するか否かについて判断する。

地公法六一条四号の「あおり」の意義については同条号の犯罪構成要件の意味内容を明らかにした際述べた通りである。そしてここに勢いのある刺激を与えるというのは、主として相手方の感情に訴える方法により、その感情の興奮昂揚を惹起させて合理的判断を困難ならしめることを指すものと解するのを相当とする。ところが、被告人中西を除くその余の実行被告人等及び相被告人鈴木の七名がなした上記認定の各行為は、前示行動規制を含む一〇割休暇闘争実施指令の伝達並びにこれに関連して指令伝達のためになした発言即ち行動規制を含む指令の内容の説明、行動規則の反覆告知及び大会決定乃至指令の拘束力に対する意見の開陳等であつて、畢竟指令の伝達以上に出るものでなく、被告人中西に至つては経過報告をなしたにすぎない。そして指令の伝達は大会決定に基づき執行機関の発した争議行為実施の命令を伝達する行為であつて、そのことじたい相手方の感情に訴えて勢いのある刺激を与えるものということができないのみならず、本件全証拠を検討しても、右各行為が刺激的な内容をもち、又は相手方の感情を興奮昂揚させて合理的判断を困難ならしめるような情況下でこれらの行為がなされた事実を認めるに足る証拠はなく、右実行被告人等及び相被告人鈴木の各行為をもつて、地公法六一条四号の同盟罷業の遂行をあおる行為に該当するものとなすことはできない。

検察官は、本件指令は、違法な行為を命ずるものであつて組合員に法的拘束力を及ぼすものではないが、組合員に対し事実上の強い拘束性影響性をもち、かつ組合員の争議行為は指令をまつてはじめて実施されるものであるから、右実行被告人等及び相被告人鈴木のなした指令の伝達及びその際の「申し向け行為」は、地公法六一条四号のあおる行為に該当するものと主張する。地公法三七条一項と憲法二八条との関係はさておき、右一〇割休暇闘争実施指令が、第五二回臨時大会の決定と相まつて大教組組合員に対し、少くとも事実上強い拘束力を有することはいうまでもないことである。しかしながら、右指令がかかる拘束力を有するのは、その内容である一〇割休暇闘争についての基本的意思が実施日時方法等かなり具体的な点に至るまで最高決議機関である大会によつて決定され、ついで中央委員会の決定に基づき設置されている戦術委員会において具体的行動規制が定められた上、執行機関である常任執行委員会によつてこれが発せられたからであつて、その拘束力の根拠は、右指令の伝達が所属組合員の感情に訴えて勢いのある刺激をあたえることにあるのではなく、大教組の組織の基礎となつている団体の規律そのものにあるのにほかならない。もし大教組にして組合員の自主性のない幹部独裁の組合であつて、その指令も自主的に選出された代議員よりなる決議機関の決定を経ておらないのであるならば、或いは闘争実施指令がその内容や告知方法における刺激的要素によつてはじめて拘束力を獲得する場合もあり得るであろうが、本件においてはかかる事情を認めるべき証拠はない。

又検察官は、本件一〇割休暇闘争については全員投票を行つておらず、しかもそれは第五二回臨時大会で異状な状況下に決定されたものであつて、組合員全体の意思に基づくものでなく、右指令は、執行部が早くから計画的組織的な情宣活動をなして組合員の意思統一をはかり、勤評規則制定の際には一〇割休暇闘争に突入しなければならないようなムードを作りあげ、右大会を手段として組合意思を作出した上、発出伝達されたものであるから、右指令の伝達その他の行為はあおる行為に該当すると主張する。本件各証拠によれば、右一〇割休暇闘争については全員投票を行つていないこと、そして組合員中には右闘争に消極的な意見を持つている者も多数あつたこと、及び大教組執行部が勤評反対闘争開始以来上記の如く休暇闘争その他の実力行使を度々計画してこれを決議機関に提案するとともにオルグ活動をはじめ情宣活動をなし、組合員の意思統一をはかるよう努力して来たことを認めることができるけれども、かかる事実があるからといつて右実行被告人等及び相被告人鈴木の上記各行為が、組合員に対し勢いのある刺激を与える行為となるものではない。而して、大教組執行部が勤評規則制定の際は一〇割休暇闘争に突入しなければならないようなムードを作りあげ、異状な状況下に開かれた第五二回臨時大会を手段として一〇割休暇闘争の組合意思を作出した事実はこれを認めるに足る証拠がなく、却つて本件各証拠によれば、右一〇割休暇闘争は、上記の如く夙に第五〇回臨時大会において、布施支部伏見格之助代議員より起項修正案として提案可決され、ついで開かれた第五一回臨時大会においても確認されていたものであつて、かかる大規模の闘争実施に消極的意見を抱く組合員が多数あつたことも事実である反面、一般に勤評反対闘争については組合員の関心も高く、殊に本件起訴の対象となつている府高支部ほか六支部の組合員中には、執行部の教宣活動に関係なく右一〇割休暇闘争を積極的に推進しようとした多数の組合員があつたことも窺うことができる。

更に検察官は、被告人片山が昭和三三年一一月一日の茨木支部全員集会に、被告人東谷が、同年一〇月三〇日の高槻支部の全分会委員合同会議に、被告人井上が同年一一月一日の大阪市教職員組合連合協議会東成地区分会責任者会議に、被告人小笠原が、同月三日の大東支部拡大闘争委員会及び同月四日の守口市立守口小学校分会会議に、被告人小巻が同月四日の府立生野高等学校及び天王寺高等学校の各分会会議に、被告人村田が同月一日の府立八尾高等学校分会会議にそれぞれ出席してオルグ活動をなしたことなどを主張するが、かかる事実はいずれも訴因外の事実であるばかりでなく、上記実行被告人等及び相被告人鈴木の上記認定行為が争議行為の遂行をあおる行為に該当することを証明すべき間接事実とも認め難い。

してみると、実行被告人等及び相被告人鈴木の八名の上記各行為が地公法六一条四号の同盟罷業の遂行をあおる行為にあたるものと認め難いことは明らかであり、従つて右被告人等と共謀したことを訴因として起訴されているその余の被告人等についても犯罪の証明がないことは多言を要しない。

第五以上説示したところによれば、その余の点について判断するまでもなく、被告人等に対する本件各被告事件が罪とならず、若しくは犯罪の証明がないことが明らかであるから、刑事訴訟法三三六条に従い、被告人等に対し無罪の言渡しをする。

よつて、主文の通り判決する。(吉益清 石松竹雄 喜多村治雄)

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